第20回【債権法改正と保険】

権法分野を中心とした民法の改正案が、2017年年5月26日に国会で可決、同6月2日に公布されました。改正法は、公布日から3年以内に施行されます。この改正は、保険の契約ルールや保険金の支払いについても関係します。今回は、そのうち主なものを2点取り上げます。

1.約款に関する規定の新設

・まず、保険の契約内容は各種「保険約款」で定められています。
約款では、保険金が支払われる事故の類型や金額の算出方法など、規定されている項目が多岐にわたります。
・約款の内容に同意することが契約の前提ではあるものの、規定を隅から隅まで確認・理解することは、特に一般消費者にとって容易でない側面があります。
そのため約款の内容に関して紛争が生じたとき、その拘束力が争点となる場合がありました。
・しかし、現行民法には約款に関する規定がなく、先述のような場合の処理が明文上明らかではありません。よって裁判により、原則同意の推定を根拠として約款の拘束力を認め、契約者にとって一方的に不利となる条項は例外的に無効とする判断がなされてきました。
・改正民法では、この判例法理が明文化されることになります。また、契約後の約款変更が許されるのは、契約者にとって有利となる場合、または変更に合理的な事情がある場合に限るという規定も盛り込まれます。
・これにより、約款の内容が契約者にとって不利とならないよう、従来以上の注意が促されることが期待されます。

2.法定利率の変更と賠償責任保険

・賠償責任保険は、対人・対物事故を発生させたことによる、法律上の賠償責任をカバーする保険です。個人賠償責任保険や施設賠償責任保険、PL保険などの種類があります。
広い意味では、自動車保険の賠償責任補償もこれにあたります。
・対人事故で相手を死亡させたり、重度の後遺障害を与えてしまった場合、賠償責任保険で補償されうる損害に逸失利益(事故がなければ将来得られたはずの金銭的利益)があります。
死亡の場合で考えたとき、被害者が生涯得たであろう総収入から、支出したであろう生活費を差し引いた額が、逸失利益としてみなされます。
・ただし、賠償しなければならないのは、その全額ではありません。
賠償額+運用益=逸失利益の額と考えるため、賠償額の算定にあたっては、逸失利益の額から運用益が差し引かれます。この運用益の計算には、法定利率が用いられます。
・法定利率は民法が標準的とみなす利率で、現行は年5%と規定されています。
しかし、市中金利の現状などに鑑みたとき、一般人が年5%で運用するのは容易でないと想定され、法律と実態とのかい離が大きくなっているといえます。このかい離幅を縮小するため、今般の法改正で年3%(必要に応じ3年ごとに見直し)への変更が実施されることとなっています。
・この法定利率の低減により、賠償額の算定にあたって逸失利益の額から差し引かれる運用益が、従来よりも小さくなります。すなわち、賠償額の高額化と、それに対応する保険金の支払額増加を意味します。
・これに伴って今後、賠償責任保険や自動車保険の保険料率に影響が生じる可能性があります。

以上が主要なものになりますが、法改正がなされる項目はこれにとどまらず、現状想定されていないような影響が出てくる可能性もあります。平成22年の保険法施行、また昨年の改正保険 業法施行など、近年保険を取り巻く法整備が着々と進められてきました。これらと併せ、今回取り上げた債権法の改正が、保険のさらなる社会貢献を促進することが望まれます。