第18回【火災保険の再考(糸魚川大火を受けて)】

平成28年12月22日~23日にかけて、新潟県糸魚川市で大規模火災が発生し、住宅等144棟が被災、約4万㎡が焼失しました。今般被災した建物には、建築から長い年月を経た木造物件も多く含まれています。築古物件に関しては、火災保険が建築当初のままの補償条件になっている可能性がありますが、その場合、十分な補償を受けられず再建に大きな支障を来すことが考えられます。今回の事案を受け、以下では火災保険の意義を改めて確認するとともに、付保に際しての注意事項等を説明いたします。

1.火災保険の意義

・火災によって損害を被るケースは、自らが火元となる場合はもちろん、他からの延焼被害を受ける場合も考えられます。木造建物の多い我が国は、特に延焼被害が拡大しやすい条件下にあります。
・延焼被害を受けた場合は、まず一般不法行為法にもとづく火元への損害賠償責任追及が考えられます。しかし、我が国には民法の特別法として「失火ノ責任ニ関スル法律」(通称:失火責任法、失火法)が存在し、重過失による失火の場合を除いて、失火者の不法行為責任が免除されることとなっています。
・また、仮に故意または重過失による火災であることが認められ、法律的には責任追及の条件が整ったとしても、火元に十分な資力がない場合には、賠償請求は有効な手立てとなりません。もし賠償を受けられたとしても、賠償額はあくまで時価額が上限となるため、被害物の再建・再取得には超過分の資金が別途必要となります。
・従い、延焼事案の被害者となった場合は、火元からの賠償による原状回復が期待できず、火災保険による資金準備が重要となってきます。

2.火災保険手配に際しての注意事項

建物等の再建を火災保険に委ねる場合、付保にあたって注意すべきポイントがあります。

(1)保険金支払基準の確認 ~「時価」と「新価(再調達価額)」~

火災保険には、「時価契約方式」と「新価(再調達価額)契約方式」があります。
・「時価契約方式」・・・損害額が時価評価となり、原状回復の資金としては不十分となる可能性があります。
例)損害額(時価評価):700万円/再建費用:1,000万円
⇒支払可能な保険金はあくまで700万円であるため、超過分の300万円は別途手配が必要
・「新価(再調達価額)契約方式」・・・原状と同等のものを再建・再調達するために必要な額が補償されます。

上の例では、1,000万円の保険金支払いが可能です(ただし、約定保険金額が限度)。

(2)評価額算定・保険金額設定の適正性

火災保険では、まず保険対象となる建物等の評価額を算定しその額をもとに保険金額(限度額)を設定します。建築・取得から長期間経過した保険対象は、その後の建築費・物価の上昇により再取得価額が上昇している可能性があるため、仮に現行契約上も当初の評価額・保険金額が踏襲されている場合は、設定条件の見直しをお薦めします。

3.自らが火元の延焼事案で、被害者を補償するには・・・

火災保険では、一般的に次のような特約が用意されています(名称は一例です)。
・「失火見舞費用保険金補償特約」
・・・火災などにより近隣等第三者に損害が生じたとき、当該第三者への見舞費用を補償。
・「類焼損害補償特約」
・・・類焼先の火災保険の補償金額が十分でない場合に、修復費用の不足分を補償。